空へ海へ…

犬猫たちとの、ことらな日々

死に神

心の隙に

心の影に

その人にとっては非常に魅力的に見え

その人にとっては美しく

その人にとっての甘言で取り込み

魅入らせ

惑わせ

狂わせ

取り込む

 

ミイラ取りがミイラになる

ゲートキーパーが、向こう側になる

かけがえの無い大事な人も、死神には腰に下げる数ある髑髏のひとつでしかない

 

取り返したくても、叶わなかった

 

魅入られる前の

死に神に出会う前の

貴方に会いたい

大きなだし巻き玉子と…

その頃、私は病気で上手く動けなかった。早く動けなかった。

 

昨日は、お昼に食べるものが沢山あったけど、今日のお昼は?と考えてみたら何も無かった。

あら、お昼に、困っちゃうな…。

何か、作らなきゃ。

そうそう、この前、すごく大ぶりなタラの切り身を1つとってあった。ムニエルにしよう。あとは、だし巻き玉子。おお、ずいぶん大きいのが出来た。貴方には真ん中の1番良いところを、2切れ!それから…、確か雪菜があったはず。ソテーにしようか。

結婚式の時に作ってもらった大きな焼き物のお皿に盛り付けて…

なんとか、できた。案外キレイで美味しそうに出来た。良かった良かった。

 

そろそろ行かなきゃ、遅刻する。

 

貴方が、台所のカウンターの前を俯き加減に右からすっと、通ったから…

「これ、お昼に食べてね…。」

貴方は足を止めて、顔を上げてこちらを見て、ふと、微笑んだ。

「え、俺の?」

「そだよ。お昼に食べるの無かったから…。食べてね」

カウンターを出て、そばに行きお皿を差し出すと

「もう、そんなにはしゃがなくて良いから…、もう、行って、遅刻するから」

お皿を受け取って、そう言った。抱きしめる事はなかったけど、そっと、いつもより歩み寄って、抱きしめるようにそう言った。言ったと、思う。ありがとうって言ったかどうかは、今となってはよく思い出せない。

 

これが、貴方と言葉を交わした最後だった。

 

過ぎてしまった時間は、書き留めておかないと、色褪せてしまう。輪郭が不鮮明になるように、捉えどころが無くぼやけてしまう。

自分の中で、細部を書き換えてしまいそう。

 

あの時、確かに貴方は私の近くに居たのに…。

すり抜けて逃してしまった。

何より大事で、愛おしい貴方にはもう会う事はできない。

お誕生日おめでとう

お誕生日おめでとう🍾

 

プレゼント何がいい?って聞いてもこの頃は、「もういらないよー。他の子にしてあげて」と言ってた。

 

もっともっと、たくさんしてあげたい事があったけど、どれももう、叶わない。もう、貴方の時間は止まってしまった。

 

貴方が生まれたとき、今まで感じたことのないなんとも言えない幸せな気持ちになった事、忘れない。

 

とてもとても大切で、何にも代え難い貴方。もう、会えなくなってしまっても、貴方の誕生日にはお祝いしたくて、食べて貰えることの無いケーキを買いました。

 

お誕生日、おめでとう。

今でも、貴方の幸せを祈ってるよ。